【ネタバレなし】映画「君の名は。」感想 新海誠のエンターテイメント的な集大成。

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新海誠監督の最新劇場版アニメーション「君の名は。」を公開日(8月26日)に見てきました。

ほしのこえ」「雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」「星を追う子ども」「言の葉の庭」と、今まで全ての新海誠作品を見てきましたが、「君の名は。」は上映前から大々的にテレビCMを打つなどし、これまでの作品と比べて各メディアへの露出度が明らかに違っています。

また、予告トレーラーを見る限りでは、今までとは大きく異なった作風であることにも興味と若干の不安がありましたが、いざ蓋を開けてみれば、やっぱり新海誠ワールドでした。しかも最高の。

ストーリーに関するネタバレは含まないように書いていますが、未視聴の方は一応ご注意ください。

予告編は青春ラブコメ?

田舎に済む女子高生・宮水三葉(みつは)と、東京に済む男子高校生・立花瀧(たき)が夢の中で入れ替わる。

最初に予告トレーラーを見た時は、相互の中身が交代する「入れ替わり」は創作作品では散々に使い古されたネタなので、これを新海誠は一体どうやって表現するのだろうという期待と、今更入れ替わりネタをやっても…という不安がありました。

第1回トレーラーではこの「入れ替わり」要素を殊更に強調している部分もあり、もしかしたら入れ替わった二人が最終的に出会ってハッピーエンドのようなお決まりパターンで終わるだけの青春劇なのではと感じた部分もあります。

ちなみにキャラクターデザインは「心が叫びたがっているんだ。(ここさけ)」「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない(あの花)」などのキャラデを手掛けた田中将賀。今までの、どことなくアンニュイな表情を見せる新海作品の登場人物とは異なり、ややコミカルで柔和、そして表情豊かなキャラデザに仕上がっています。

第2回トレーラーではややシリアスな内容も含まれ始めます。

新海作品の一貫したテーマ「喪失」「心の距離と、心が近づいたり遠ざかる速度」はやはり失われていないのだと感じました。

また、劇場版に先駆けて新海誠書き下ろしの原作小説「君の名は。」も6月に発売されました。

小説「秒速5センチメートル」は映画の補完としても、単純に読み物としてもとても出来が良かったため、こちらも読もうかどうか非常に迷いましたが、結末を知って映画を見るのはどうしても嫌だったので劇場版を見てから買うかどうか決めることに。

 

映画館はほぼ満員

地方都市の某ショッピングモール内にあるシネマコンプレックスで鑑賞してきました。

上映時間は2時間弱と、新海誠作品としては最長レベル。否が応でも期待は高まります。

一緒に見に行った友人も私と同じように「秒速5センチメートル」で心に深い傷を負った人間なので(笑)、今回はどうしてくれるのだろうとワクワクでした。

20時開始のレイトショーながら客入りは多く、スクリーンに近い席を除いてほとんどが埋まっていました。年齢は10代〜30代くらいの若年層が目立ったように感じます。

にもかかわらず、エンドロールになっても誰一人席を立たなかったのには驚きました。

起承転結のハッキリした作品

今回鑑賞して感じたのが、作品の構成が非常にはっきりとしていることです。

見ていて、ここから「転」だな、ここから「結」だな…というのがかなりわかりやすく作ってありました。

個人的に新海誠作品は構成があいまいというか、作品の結に当たる部分が万人受けしない終わり方をすることのほうが多かったように思っているので、「君の名は。」の終わり方は意外でした。

また全編的に挿入歌が多く、ボーカルつきのオープニング曲まで用意されており、序盤のコミカルな展開が、どことなく細田守チックだったのは気のせいでしょうか。

今までの必ずしも万人受けしない作風と異なり、かなり商業的で万人受けするエンターテイメント的な作品を目指しているように思えました。

安定の風景描写

新海誠作品のこの上ない魅力の一つに、凄まじい力の入った背景作画が挙げられます。

今回も、新海誠ワールド全開の風景美でした。特に作品の重要なキーワードである「彗星」を始めとする空・星の描写は凄まじく、同じ星を撮影する人間としては、ただただその緻密さ・色彩表現の美しさに見入るばかりでした。

また、今回作品の舞台が「東京」と「飛騨(にある架空の町、糸守町)」ということで、都市の描写と自然の描写両方を味わえる、1粒で2度美味しい作品に仕上がっています。

各所で挿入歌を受け持つRADWIMPSの曲も、新海誠のビジュアルとよく合っており、極上のPVを見ているような気分にさせてくれました。

前半の「入れ替わりアニメ」からの落差

作品前半は予告トレーラーでも出ていたように、主人公2人の「入れ替わり」がメインでストーリーが進行していきます。

最初は突然の現象に戸惑っていた互いも、何度か回数を重ねるうちに相手の人生を楽しむ余裕さえ出来ていきます。

しかしその矢先、とあることがきっかけで、それ以降「入れ替わり」が起こらなくなります。

入れ替わり相手の三葉に徐々に心ひかれ始めていた瀧は、彼女を訪ねるために入れ替わりの時の記憶をもとに糸守町のスケッチを描き、それを手に岐阜県の飛騨へ向かいますが、なかなか見つけることが出来ません。

なぜならば…というところで作品が一気に「転」に入ります。

ここまでいくつも伏線はありましたが、「そうくるのか…!」と唸らずにはいられない展開で、やっぱり新海誠だった!と歓喜。

正直開始30分でトイレに行きたくて仕方なかったのですが、ここで完全に引っ込みました(笑) そのまま完全に作品に没入し、あっという間にエンドロールでした。

 

万人受けする作品、だが新海誠ファンも満足できる

前述のとおり、起承転結が非常にはっきりしていること、目まぐるしく変わる瀧と三葉の視点が、視聴者に対してとてもわかりやすく描かれていること。

この2点のおかげでかなり理解しやすく、人物の心情も読み取りやすいため万人受けする作品に仕上がっていると思います。

おそらく、興行的にもかなり良い成績を残すのではないでしょうか。

決して「秒速5センチメートル」のような(特定の人間にとって)心を抉る作品ではありませんが、今まで新海作品を見てきたファンでも満足できる内容になっていると思います。

しっかりと「心の距離」(東京と飛騨の距離だけではないのです。ネタバレになるのでそれが"どの距離"なのは書きませんが)も緻密に描かれていますし、定番の新海誠ポエムもかなりマイルドになっていますが健在です。

ストーリーは最終的に、今までの作品にないくらい壮大になってしまうのですが、それでも結局監督が描きたいのはやはり「心の距離」なのだと強く感じました。

「秒速5センチメートル」などのオマージュ(多分すぐ分かります。ほんとに。)に加え、前作「言の葉の庭」の登場人物であるユキちゃん先生がチョイ役で出てくるなど、今までの新海作品を見てきた人にこそ分かる、嬉しいポイントも多かったと思います。

そして今までの作品の終わり方を知っているからこそ、ラストの展開はもうニヤニヤしっぱなしだったのですが(笑)

総評

作品の方向性としては、かなりエンターテイメント寄りだと思います。

特に今までの新海誠作品を見てきた人は、違和感を覚えるかもしれません。

しかし、万人受けする作品に仕上げながら、これまでのファンをも納得させる出来なのは、個人的に間違いないと感じます。「新海誠最高傑作」という前評判に狂いはありませんでした。

そしてこれからの新海誠監督の代表作として挙げられるようになるのは、おそらく間違いないでしょう。

映像美・心情描写・RADWIMPSの音楽が三位一体となり、極上のエンターテイメントを味わえると思います。是非ともスクリーンで見ていただきたい作品です。

また、可能であれば小説よりも先に映画を見たほうがいいと思います。小説は映画の後でもOKかな、と思います。

更に欲を言えば、「秒速5センチメートル」「雲のむこう、約束の場所」「言の葉の庭」あたりをあらかじめ見ておくと(個人的には「ほしのこえ」も推したい)、更に深く作品を楽しめるのではないかと。

私はこの興奮が冷めやらぬうちに小説版をすぐに買って読みたいと思います。また、Blu-ray化の際は絶対購入します(ボツエンドでラストシーンに「いつもの」新海誠エンドが入ってたりすると感涙)。

細かい文字とか各所のカットを停止しながらゆっくり見たいですし!楽しみです。