K-1で使える超広角単焦点レンズ、Irix 15mm F2.4 Firefly for PENTAX レビュー

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諸君、私は単焦点レンズが好きです。

どれだけ好きかというと、現在手持ちのレンズのうち、7割が単焦点レンズなくらい。

ただ、フルサイズのPENTAX・Kマウントには、超広角単焦点レンズのラインナップが無いのが悩みでした。

私の愛するSIGMAはもはやPENTAXを見限ったのか、APS-C用ですらKマウント用のレンズを発売してくれないし(むしろ新ラインナップへの移行でPENTAX用がどんどん消えていく始末)、PENTAX純正のフルサイズ用超広角レンズは超広角ズームのD FA 15-30mmしか無い(しかも25万円)…ってところに、スイスの新興レンズメーカーが割と安価なMF超広角単焦点レンズを発売する、しかもCanon EFマウント・Nikon Fマウントに加えてなぜかPENTAX Kマウントがある!ということで、これはもう購入するしかない、ということで、Irix 15mm F2.4 Fireflyを個人輸入してみました。

Irixについて

Irixはスイスの新興レンズメーカーで、2016年の春にイギリスのPhoto Showで発表されました。

設計・企画はスイス、製造は韓国(おそらくサムヤン製造と言われています)で、現在のところ15mm F2.4と、11mm F4.0の2種類を発売しています。どちらも超が付くほどの広角レンズですが、魚眼レンズ(Fisheye)ではありません。

どちらのレンズも大口径でオートフォーカスは無く、フィルター径も化物のような大きさです。もうこれだけで風景写真向けのフォトグラファーをターゲットにした、非常にニッチなメーカーだというのがお分かりいただけると思います。

なお、各レンズにはグレードが存在し、プラスチック鏡筒で軽量・安価のFireflyと、マグネシウム合金鏡筒で高級感があるBlackstoneの2種類です。

画作りに関与するレンズ構成などはどちらも同じですが、外見・鏡筒の素材・一部の撮影を補助する機能などが異なっています。

例えば、ハイエンドのBlackstoneはレンズの印字がエングレービング(彫り込み・墨入れ)されているのに対して、Fireflyはプリント印字だったり、Blackstoneは文字が暗所でも見えるように蓄光塗料を使っているのに対してFireflyはそうではないといった点です。

私はとりあえず写真が撮れれば文句はないので、安価で軽量なFireflyを購入することにしました。

 

購入

発売当初は日本での取扱が無かったため、eBayなどでヨーロッパの出品者から出てくるものを狙っていたのですが、価格的にあまりお得ではなく(送料を入れて7万円程度)、そのうち日本でもどっかのメーカが取り扱うだろうと考え、気長に構えていました。

そんな折、たまたま「Irix 15mm」で検索したところ、GORAWというサイトが正規代理店として検索結果の上位に来ており、サイトを覗いたところ、送料込みでも約5万円(Firefly)とかなりお値打ちなサイトを見つけてしまいました。

しかしこのサイト、本当に出来たばっかりなのか、ネットで評判を検索しても言及すらされていなく、どことなく怪しい雰囲気が漂っていて購入を躊躇してしまうレベルでした。

ただ、決済にPayPalが使えるようだったので、「これなら万が一詐欺だったとしても補償されるしまあ良いか」ということでGORAWでIrix 15mm F2.4 Firefly for PENTAX Kを購入しました。

実は購入したのはこの記事を書くだいぶ前の2017年10月なのですが、昼前に注文・PayPal決済を行ったところ、なんと当日の14時に「発送しました」とトラッキングコード付きのメールが。

いくらなんでも早すぎるだろ…と訝しんだのですが、どうやらGORAWは香港の会社のようで、それなら日本との時差もほぼ無いし、まあありえない話ではないか…と納得しました。

IRIX郵便記録

結局荷物は10月16日に発送され、23日に受取りました。

流石は国際特定記録(国際eパケット)ですね、とても早いです。中国や香港からは通販で色々な物を買っていますが、香港と中国だと、取り扱いのスピードが段違いで香港のほうが早いんですよね。やっぱり国籍は同じでも、歴史と文化は全く違うんですかね…。

開封

IRIX荷姿

そんなこんなであっという間に到着したIRIX 15mm。

荷物は道中もけっこう丁寧に扱われたみたいで、荷姿が思ってたよりも綺麗でした。

ちなみに関税は無税でした。

IRIX 荷姿2

黒い梱包材を解いた状態。レンズの箱はプチプチで包まれ、その外にさらにスポンジタイプの緩衝材が6面に巻かれていました。

IRIX外箱

レンズの外箱とご対面。流石に箱の角は潰れていますが、国際郵便でこれなら全然許容範囲ですね。

IRIX外箱2

マウントもちゃんとPENTAX。箱の隅にはスイスデザイン、メイド・イン・コリアと記載されています。結局どういう経緯でこの商品が香港にありそれを日本向けに発送しているのかは分かりませんが、安く買えてちゃんと届いたのは良かったです。

IRIX内箱1

外の箱を開けると、中から更にスチール缶のケースが出てきました。

IRIX内箱2

流石に缶は輸送によるダメージを受けてますね。ダンボールと違って、ひしゃげても復元しないから仕方ないです。

中のレンズさえちゃんとしてれば私は気にしませんが、これならわざわざ曲がりやすい缶を使わなくても…と考えてしまいます。

箱の中身

内容物

付属品はこんな感じ。右上のはケースです。Fireflyは底面のみ硬質素材、それ以外は布で出来たソフトケースですが、Blackstoneはレンズぴったりの金属製ハードケースが付属します。

 

外観

外観1

外観をざっくりと見ていきます。

今回購入したのは安価なほうのFireflyでしたが、そこまでちゃっちい印象は無かったです。

ただ、これならBlackstoneはどうなんだろう…と上位モデルに期待を抱いてしまいました。ちょっと前に撮れれば良いって言ったばかりなんですけどね。

ちなみに、FireflyもBlackstoneも防塵・防滴構造です。

外観2

前玉、というかフィルター径が巨大です。なんと95mm。日本製の円偏光フィルターで30,000円くらいぶっ飛びますね。

Irixはこの15mmのほかにさらに広角の11mmも出していますが、そちらはフィルターが付けられません。実物を見ていないので分かりませんが、以前レビューしたシグマの8-16mmのように、レンズが出目金(フィルターのねじ切りよりレンズが飛び出してる)になっているのかもしれませんね。

外観3

とはいっても、15mmもこうしてみるとだいぶ出目金です。

ケラレないためにはこれくらいのフィルター径が必要なのでしょうかね?

外観4

レンズフードは着脱式で、使用しない時は反転してコンパクトに収納できます。

奥に見えているのはPLフィルター操作用の窓ですね。果たしてこのレンズのためだけにPLフィルターを買う日が来るのかは分かりませんが…

外観5

フォーカスリングは硬質のゴム製で、リングの中に操作用の突起がある珍しい形です。

ただ、フォーカスリングの回りが少し渋いです。そもそもこういうものなのかもしれませんが、重すぎて微調整がしにくいです。使ってくるうちに馴染んでくると良いのですが。

外観6

また、フォーカスリングの前側にはロック機構が付いており、撮影中の不意のピントずれを防げます。私の場合、天体撮影などで活躍しました。他のレンズでは養生テープで固定していましたからね。ただ、ロックを締め込むとフォーカスリングも一緒に少し回ってしまうので、しっかりと思い通りの位置で固定できるようになるまで、慣れるのに時間がかかりました。ここはちょっと残念な点です。

ただ、このレンズで最高だと思ったのが、フォーカスリングが無限遠の位置でカチッとクリック感を持って停止すること。とくに暗所での撮影に大変役立ちました。

マウント

絞り羽根は9枚の円形絞り。同じようなレンズであるサムヤンの14mmは絞りもマニュアルですが、こちらのIrix 15mmはカメラ側で絞りを制御できます。

キャップ

レンズキャップはよくあるバネ式のタイプですが、ツマミ部分が大きく使いやすいです。

外観7

いくつかの不満点、例えば巨大過ぎるフィルター径のため、フィルターを揃えるのにお金がかかる、フォーカスリングが重たい、などはありましたが、それを打ち消すだけのコストパフォーマンスの高さと、カメラマンのことを考えた便利な機能が揃っています。

全体的に見て、価格以上の出来ではないかと思います。余裕があれば上位機種のBlackstoneも購入したいくらいです。

 

作例

ここからはIrix 15mm F2.4で撮影したいくつかの作例を紹介します。カメラは全てPentax K-1です。

IMGP3741.jpg

超広角レンズで、高い建築物を足元から撮るのが好きです。さっぽろテレビ塔は147mとタワーにしては低いほうですが、それでも足元から撮って余裕たっぷりですべて収まるのは35mmフルサイズに15mmだからこそ為せる技ですね。

さて、上の写真はF2.4の絞り開放で撮っています。流石に開放だと周辺減光が気になります。これも広角の味という人も多いですが。

上の写真は特に補正をかけていませんが、レンズ補正をする場合、Adobe LightroomにはIrix 15mmのレンズプロファイルが無いため、サムヤンの14mmもしくは16mmで補正すると割とうまくいく印象です。

また、絞り開放では周辺部の解像力が少し低下していますが、中央部は開放の割にかなりキレてる印象です。

IMGP3749.jpg

サッポロファクトリーのアトリウムを3階南側通路から。

縦位置で撮っても、左右の通路がほぼ全部入ってしまう驚きの画角の広さです。ここはサッポロファクトリーの室内では一番写真を撮る人が多い場所だと思いますが、この描写は他のカメラでは真似できないですね。

F10まで絞っていますが、ここまで絞ると周辺部までカリッカリになります。すごく好きな描写です。

また、天井のガラスの梁などを見ても、ほとんど歪曲収差が出ていないのはスゴイなあと思いました。

IMGP3753.jpg

同じくサッポロファクトリーの煙突広場。高い建築物を(略)

こうして見ると、写真上部にある建物の、空と接する壁の縁がほんの少し歪曲しているように見えますね。

ちなみに、なんでサッポロファクトリーなのかというと、ちょうどこの日サッポロファクトリーでPENTAXのトークイベント(Why Pentax?)が有ったためです。

すでに発売となったK-1 Mark IIの話や、今春発売予定だったD FA★ 50mm F1.4(現在最終的な調整中で、2018年夏までには発売するらしいです。価格は200kまではいかない程度だそう)などの話が聴けたり、無料でカメラ・レンズの点検清掃をしてくれたり、「写真三昧」の池永和夫さんのPENTAX愛を聴けたりと、なかなか楽しいイベントでした。

なかなかこういったイベントは北海道で行われることがないので、機会があればぜひともまた北海道で開催してほしいものです。

IMGP3757.jpg

超広角は、風景や建造物だけでなく、狭い空間を一枚の中に収めることができるのも、私が広角レンズを好きな理由の1つです。

最近ご無沙汰になった愛車のデミオを、運転席ドアの位置から撮影しました。

あまり室内が広い車ではないのですが、なんだかすごく広く見えますね。この写真だけで、色々なパーツが付いていることも分かると思います。

超広角レンズはその画角故、時に意図しないものも写り込んでしまうことがあり、それはひとつの欠点ですが、このように画面目一杯を使って、見せたいものを魅せることができるのは、最高の長所だと思います。

IMGP2622.jpg

最後に星の写真を。北海道の山中の駐車場で、三脚設置・アストロトレーサー使用で天の川方面を、絞り開放で60秒間露光したものです。レンズ補正(周辺減光補正)済み。

周辺がわずかに流れていますが、私が予想していたよりもずっとしっかり撮れていてとても嬉しかったです。

特に私の場合、広角レンズを買う最も大きな理由として星景写真を撮るというものがあるため、明るい超広角レンズというのはとても助かっています。

重たい赤道儀なしで、アンドロメダ銀河もプレアデス星団もミルキーウェイもすべて1枚の写真の中に、しかも流れずに収められるのはPENTAXユーザーの特権ですね!

そしてこのレンズにはニコン用もキャノン用もありますが、どちらもレンズ内手ぶれ補正がないので、手持ちでも暗所でしっかり撮れるのはボディ内手ぶれ補正を備えるPENTAXだけです。

まとめ

Irix 15mm F2.4、安価で明るい超広角単焦点レンズを求めるPENTAX K-1ユーザーにはマストバイかと思います。というか、これかサムヤンくらいしか選択肢がないのですが…

もちろん懐に余裕があるならD FA 15-30mm F2.8を買うのがベストなのですが、なかなか25万のレンズを買うとなると、そのお金で他にも色々欲しいものが出てきますし(D FA 150-450mmとか欲しいです)… ただ、実質5万前後でこの明るさの15mmが手に入るのですから、一体何を迷う必要があるのでしょう?

それでもやはりマニュアルフォーカスレンズなので、それを許容できる人、じっくり腰を下ろして撮るような方向きだと思います。また当然ですが動物や人物には不向きです。今日も猫を撮ろうとしましたがまずピントが合わないし、広角すぎて構図が難しいです。

まああとは、単焦点なのにデカくてかさばるし重いので(広角だから当たり前なんですが)、気軽に持ち出せない点もちょっとマイナスです。写りは好きだからいろいろな場所に持っていきたいんですけど、例えば登山や海外旅行に持っていこうとは全く思えないですね。

と、機能的・サイズ的な不満点もいくつかあるのですが、それを打ち消すだけの描写力(価格に比べて)と唯一無二の画角があります。

広角が無くてお嘆きのPENTAXユーザー諸兄には絶対オススメです。