前回は、予備自衛官補の採用試験について、いくつかポイントなどを踏まえて基礎知識をまとめました。
今回は、合格後に行われる召集教育訓練についてまとめていきたいと思います。
訓練の準備
訓練日程の決定・調整
訓練は原則5日間の連続する日程で行われます。仕事や家庭の事情などでやむを得ない場合は分割参加も可能とされていますが、居室のメンバーや、教官が変わってしまうため、あまりおすすめできません。あと単純に調整が面倒くさいそうです(笑)
訓練日程の調整は、採用通知・意向書と一緒に送られてくる訓練予定表に、自分が参加したい訓練タイプ・期日に◯を付けて返送します。
なお送付後でも、駐屯地の予備自衛官課に連絡することで、日程の変更が可能です。
召集命令書について
参加する訓練の1ヶ月前くらいまでに、出頭先の駐屯地から「召集命令書」が郵送されます。これが無いと駐屯地に入ることが出来ませんので、予備自衛官補手帳と合わせて、訓練当日までしっかりと保管しておきましょう。
訓練場所について
訓練場所は、各方面隊に1箇所(中部方面隊・西部方面隊のみ2箇所)設定されており、一般・技能の区分を問わず、全予備自衛官補がそこに集まり一般/技能ごと、タイプごとに分かれて教育訓練を行います。
遠方から参加の方で、訓練当日朝の出頭が難しい場合には、駐屯地に前泊することも可能です。このとき食事・風呂も与えられますし、宿泊は訓練中に使う居室(同じ訓練をする自衛官が生活する部屋)で行います。
ただその場合、翌日他の予備自衛官補が集まったときに、居室の使い方や装備の準備などを教えるように教官に言われることが多いです。
持ち物について
予備自衛官(補)の訓練についての基本的な持ち物は、召集命令書と一緒に送付されるプリントに記載があると思います。とりあえずそこに書いてあるものを持っていけば、訓練は出来るはずです。
その他に、持っていくと訓練が捗る持ち物を、別の記事でまとめて紹介していますので、そちらもあわせてご覧ください。
教官と役職について
部隊編成について
訓練は第1xx教育大隊(だいたい)というところで行われます。
ここは自衛官候補生・一般曹候補生などを一定期間教育するための教育隊で、予備自衛官補も、同じ建物(隊舎)のなかで生活することになります。
さらに所属する部隊を詳細に記載していくと、xx方面混成団 第1xx教育大隊 第xxx共通教育中隊 第x区隊 第x班という風に構成されており、基本的に区隊以下の単位での行動が主になります。
教官について
予備自衛官補を直接教育するのは区隊に所属する教官(助教)です。
区隊を取りまとめる区隊長(くたいちょう・2等陸尉〜陸曹長)、区隊長を補佐する区隊付(くたいづき・1等陸曹〜2等陸曹)、それぞれの班を取りまとめ、基本教練などを担当する班長(はんちょう・2等陸曹〜3等陸曹)の3役が、色々と教えてくれます。
また、教官は右肩から胸ポケットに青色の紐みたいのをぶら下げているので、すぐにわかると思います。
区隊長以外は、居室に近い助教室というところに居ます。何か用事がある時はここへ行くのですが、自衛隊流の入室時のマナー(入室要領)をしっかり守らないと怒られます。
また、まれにその上の中隊長・大隊長が教育をすることもありますが、防衛に関する座学などが主になります。
役職について
予備自衛官補にも、一般の自衛官候補生と同じように区隊ごとの「役職」があり、5日間訓練の最初に教官から「任命(お前これやれ)」もしくは「志願(やりたい人いる?)」で決定します。各地の教育隊で、役職名や仕事の分担に多少の差はあるようですが、私が訓練した場所では「教務」「内務・女性内務(女性参加者が居る場合)」「旗手」の3役(4役)がありました。
これらの役職に任命された場合、それぞれの役職に応じた肩章を、作業服の肩に取り付けます。以下で各役職について簡単に解説します。
教務(取締、統制という場合もある)
肩章は赤。区隊のリーダー的存在で、することは訓練に関することほぼ全て。いわゆる、クラスの委員長的な仕事をします。
朝礼・終礼のときの人数掌握・整列・区隊長への報告、訓練開始時の教官への人数掌握・号令・報告、武器搬出のときの整列・人数掌握・報告、移動時の整列・人数掌握・行進間の号令、朝の状況報告・夕の訓練指示受け、食事時の号令(いただきます・ごちそうさまでした)などなど…
仕事の量が多く、台詞や要領など覚えることもかなりあるので、正直言ってかなり大変です。ただ、いい経験になるのも確かです。私も1度経験しましたが、統率力がかなり上がった気がします。
また、予備自衛官になったときの訓練では、元常備自衛官や一般・技能の区別なく参加することになり、あれが出来ません・これが出来ませんでは通らなくなると思われますので、将来に向けての経験を積んでおくのには向いていると思います。
内務
肩章は青。教務の補佐役でもあり、課業外の主役でもあります。主な仕事は日朝点呼・日夕点呼時の号令、当直陸曹への報告、就寝点検時の当直陸曹への報告など。
日朝点呼・日夕点呼は教育隊によっては教務がやるところもあるようですが、私の居た場所では内務の仕事でした。
また、状況報告・訓練指示受けにも教務と一緒に行き、班員への伝達も行っていました。
こちらも私は1度経験していますが、教務ほど大変ではないにせよ朝・夜の点呼の当直陸曹がめちゃくちゃ怖い人で、毎回冷や汗ものでした。特に朝は頭がぜんぜん回っていないので、とてもしんどいです。
また、就寝点検は最低でもジャー戦(上に戦闘服、下にジャージ)で行うため、消灯後まで寝る準備が出来ないのもなかなか辛いところがあります。
また、区隊に女性が居る場合、居室は別の隊舎(WAC隊舎)になることがあり、課業後は行動が別々になります。そのため、女性のみを取りまとめる女性内務(肩章は緑)が存在します。基本的にやることは男性内務と同じです。
旗手
肩章は黄。読んで字の通り、区隊を示す旗=区隊旗(くたいき)に関わる役職です。
訓練初日には区隊長から区隊旗を授与される「区隊旗授与式」、訓練最終日には区隊長に区隊旗を返納する「区隊旗返還式」があり、どちらも旗手の役目です。
またこの他に、隊舎から別の場所に移動して訓練を行う場合、旗手は区隊旗を持って、列の先頭で移動します。もし忘れると怒られます。
終礼後は旗手を中心に区隊で円陣を作り、旗手がなにか気合の入る挨拶をするというのもありました。完全にアドリブなので、こういうのが苦手な人は他の役職に志願しましょう。
営内生活の基本
共同生活について
一回の訓練は、一部屋最大10人(2段ベッド5台)で、5日間生活することになります。
ルームメイトとは食事も風呂も一緒になりますし、ベッドメイクのときには二人一組で作業をしたりするので、自然と公私共に関わり合いが多くなります。
ゆっくり会話をする機会もたくさんありますし、せっかく同じ志を持って訓練に集まった同期なのですから、交友を深めておきましょう。
食事について
朝・昼・夕の各食は、食堂に移動して喫食します。もちろん移動時は教務が引率して行進です。
昔は隊員が交代で食事当番をしていたため、その味もひどかったらしいのですが、今は外注(アウトソーシング)で業者が入っており、ふつうに美味しかったです。
献立も三食のバランスが取れるようにしっかり考えられており、メニューの被りなども少ないため、とても楽しみな時間でした。
そして、訓練をすると当然ですが腹が減ります。私はけっこう偏食というか、食わず嫌いが多かったのですが、訓練に行った後はだいたいなんでも食べられるようになりました。食わないと持たないので、選り好みしている場合じゃないんですよね。
食べ物の好き嫌いが減ったことが、私が訓練に行ってよかったことの一つですね。
日曜日の朝は食堂が休みなので、パンまたはおにぎりなどを受領し、居室に戻って食べます。
また、夕食のあとは、駐屯地内のコンビニ(PX)に行き、おやつ・軽食・お土産などを買うことも出来ます(もちろんこのときも居室メンバーで団体行動です)。
就寝・起床について
起床は午前6時(0600)、就寝(消灯)は午後11時(2300)です。
その時刻ピッタリに館内スピーカーからラッパが鳴り響きますので、どんなメロディかはすぐに覚えると思います。特に起床ラッパは心臓に悪く、私は訓練後も朝の目覚ましに起床ラッパのmp3音源を防衛庁のホームページからmp3でダウンロードして使っていますが効果は抜群です(笑)
Youtubeにも、寝ている隊員の耳元でスマホから起床ラッパを流すというイタズラがありましたね。
なんでこんなに起床ラッパが心臓に悪いのかというと、6時に起きてすぐ日朝点呼があるためです。そしてそれが、戦闘服上下・半長靴・作業帽という格好で行われる(ジャー戦で良いところもあるみたいですが)ので、起きたら急いで着替えて部屋を出て朝礼の場所までダッシュしなければならないのです。ゲロを吐きそうになります。
ちなみにもたもたしてると班長がやってきてドヤされます。
就寝時はこれに比べると悠長で、日夕点呼は22時ですし、消灯後もなにかしら作業ができます(私はすぐ寝ますが)。
風呂について
風呂は、決まった時間の間に部屋全員で入浴します。裸の付き合いということで、風呂に入っているときが一番会話が弾む気がします。
ついつい会話に熱中し、長風呂をしてのぼせてしまうことも… 教務がしっかりとケツを決めて(終了時間を決めて)入浴するようにしましょう。
ちなみに浴室や更衣室では敬礼は不要です。そんな場所では敬礼をされたほうも困りますよね。私はこれに加えて売店や食堂でも不要と習いました。
また、ドライヤーなんてものは存在しませんので、長髪の人や女性は、自分のものを持っていきましょう。
というか、予備自衛官補とはいえ、他の一般隊員と同じ格好をするので、明らかに外界っぽい髪型(パーマ、染色、男性の長髪など)をしているとかなり浮きます。
清潔感のある短めの髪型のほうが、入浴後も帽子をかぶったときも楽ですし、周りに馴染むのでおすすめです。
喫煙・飲酒について
まず隊舎内での飲酒は禁止です(駐屯地によっては敷地内に隊員クラブ(居酒屋)があり、そこでの飲酒は例外的に許可されていますが)。PXでも売っていませんが、くれぐれも酒を持ち込んだりしないよう。
喫煙は所定の場所で許可されています。煙缶(えんかん)と呼ばれる吸い殻用のバケツや一斗缶が置いてあるので、すぐにわかると思います。
また、駐屯地によっては各部隊ごとに番号の書いた煙缶が置いてあり、それを持って所定の喫煙場所で喫煙する、というところもあります。
休憩時間中・課業外は基本的に吸ってよしですが、どこでも喫煙マナーは守りましょう。
課業外時間について
課業開始は午前8時15分(この時間は国旗掲揚で、ラッパ手が君が代ラッパを吹いている間は国旗の有る方向に直立し正対します)、12時に午前の課業が終了し、昼食。
午後1時(1300)から午後5時(1700)まで午後の課業、17時に国旗降納の君が代ラッパが流れます(この時も朝と同じように、直立・正対です)。
このあと夕食を食べ、それ以降は午後9時半(2130)の清掃までは自由時間です。
とは言ってもやることは多く、この時間を使って入浴、洗濯、ベッドメイク、プレス(アイロンがけ)、靴磨きなどをしなければなりません。ただ慣れればどれもかなり早くなりますので、ルームメイト同士でゆっくりと談笑する時間も出てくるでしょう。
教育訓練について
訓練日数について
一般と技能では訓練の日数が異なります。
一般では3年以内に5日間×10回の計50日となりますが、技能では2年以内に5日間×2回の計10日となっており、かなり大きな差があります。
ただ一般の場合は1年あたり15〜20日(3〜4回)程度訓練に参加しないと所定の期限に間に合わないため、社会人の方の場合だと、有給休暇を使い切っても間に合わなくなってしまう場合もあります。
そのため、参加者は大学生などが多く(というか私が技能の訓練中に合った一般の予備自補はみんな大学生・院生でした)なります。
技能の場合は割とスケジュールに余裕がありますが、それでも5日間不在になるため、職場や家庭の理解を得る必要はあるでしょう。
ちなみに訓練は木曜日〜月曜日の5日間と決まっています。普通の仕事でしたら、木・金・月曜日の、3日程度の有給休暇取得となりますね。
訓練内容について
訓練については防衛に関することなので、あれをやりましたこれをやりましたと仔細に書くことはできません。概ね上にある図の通りに進むと考えて下さい。
訓練について行けるかという体力についての心配がある方もいるかと思いますが、公募予備自衛官、特に技能に関しては年齢幅が広いこともあり、かなり配慮されていると感じました。
逆に若い方だと、少し物足りなく感じるかもしれません。
また、技能では2回目のタイプ2のときに「職務訓練」というものが設定されており、1〜2日間、自分が予備自衛官に任官されたときの職種(医療系資格であれば衛生科、無線系資格であれば通信科など)に分かれて訓練を受けます。
試験について
一般・技能どちらでも、予備自衛官補としての最後の訓練(一般はJタイプ、技能はIIタイプ)時に、達成度を調べるための「練度判定」と呼ばれる試験があります。
試験内容は駐屯地や教育隊によって異なるようですが、私の場合は基本教練(執銃時の停止間・行進間)の試験でした。
班ごとに分かれて、班長の号令のもと停止間・行進間の動作を行うというもので、一人ひとりの後ろに試験官が付いて、逐一採点を行うというなかなか緊張感のある試験でしたね、
また、Youtubeに上がっている動画では(技能タイプの予備自衛官補)、銃の分解・結合を所定の時間内に行うというのもありました。
試験内容が不出来であれば追試ということもありえますので、気を引き締めてかかってください。
最後に
ここまでつらつらと書いてきましたが、5日間という時間を全く知らない人たちと過ごして苦楽をともにするというのは大変ではありますが、その分、日常生活では得られない達成感があります。
特に社会人であれば、こういった色々な人達とふれあい生活するという機会はほぼありませんし、人脈や見識を広げるキッカケにもなるでしょう。
基本的に参加者は「国を守る手助けがしたい」「役に立ちたい」といった考えで訓練に参加しているので、意識も高くまともな人ばかりです。集団生活が苦手な人でもそこまで苦にならないと思います。
もし迷っている方が居たら、ぜひ参加してみて下さい。とても楽しく充実した場所に出会えると思います。