先日、ヤフオクでENVE(エンヴィ)という、アメリカのカーボン専業パーツメーカーのロードバイク用カーボンハンドルを購入しました。
「ヤフオクで自転車パーツを買うのは危険(特に高価なカーボンパーツ)」とは解ってはいたのですが、たまたま当たってしまった「サンデーくじポイント20%還元」やら早急にハンドル交換する必要に追われていたことなどで、ちゃんとした下調べをしないまま入札してしまいました。
発送自体は日本国内からで、相手の名前も日本人だったのでちょっと油断していたのもあったのですが、実際に届いたのはとんでもない精度の低クオリティなコピー製品でした。
そのまま1度は諦めて使って見たのですが、やはりハンドルという、万が一何かがあれば即刻生命に関わるようなパーツであることから、改めて間違いない「正規品」も入手し、今はそちらを使っています。
そこで今回はENVEのカーボンドロップハンドル「Compact Road Bar」の偽物と正規品を比較して、注意点などを調べてみました。
届いた偽物
まず購入相手の背景から。
相手は国内大阪府在住の個人出品者で、評価は50前後。そのほとんどがENVEのカーボンハンドル・ENVEのカーボンステムの出品によるもので、また全ての評価が6ヶ月以内でした。
通常であれば私の脳内アラートはこの時点で「この出品者はヤバイ」と判断するのですが(理由としてはストアでもないのに同じ商品を短期間に何回も販売する、またそもそも国内流通量が少ないものなのにどこから買っているのか?)、今回は前述の理由で入札してしまったのでした。
そして届いたのがこちら。まず受け取った瞬間に、高価なカーボンパーツの外箱に伝票を直貼りという時点で割とヤバイ匂いがしましたが、一番「あ、これはだめだ」と確信したのは伝票。
下の写真、見えづらいですが、品名の欄に「自行車部件」って書いてあります。我々日本人でもなんとなーく意味はわかりますが、つまり中国語で「自転車パーツ」ってことです。
「部件」は郵便局窓口で注意されたのか、打ち消した後に上に「ハンドル」って書いてありますね。
もう…この伝票を見た瞬間に色々と察しました。相手は日本名を偽名で騙った中国人で、おそらく中華通販サイトから大量に輸入した偽物が入っているのだろう、と。
この後取り付け前に色々と調べ、明らかに本物とは異なる部分が多数あったため、絶対返信などないだろうと半ば諦めつつ「これこれこういう理由で、偽物では?」という旨を相手に取引ナビで通達。
もちろん返事などはなく、相手は出品していたカーボンハンドル・ステム類を取り消し、その後今日に至るまで出品はありません。
おそらく住所なども本物かどうか、かなり怪しいですね。
調べる過程で海外ロードバイクフォーラムにも「ebayで買ったステムが本物かどうか教えて欲しい(Fake Enve stems or bars? (Verdict: Stem definitely fake, probably bars too…) - Page 2 - Weight Weenies)」というスレッドが立っており、そちらものぞいていた所、AliExpressにあるカーボンドロップハンドルの商品ページを発見。
ここではURLは貼りませんが、ENVEの公式サイトから画像を引っ張ってきて、フォトショでロゴだけ消したコピー商品でした。
しかもページ内にある写真付きレビューにはしっかりとENVEのロゴが入っていたため、「届くものはロゴまで完全にコピーしたものだが、BAN対策のために販売画像ではロゴを消している」ということまでわかりました。
実際、上の写真でも、ステムクランプ部分はENVEのロゴを消し忘れてますね。
というわけで、AliExpressなどから50ドルで買い付けた商品を日本から輸入し、本物と偽って25,000円前後で売りさばく、という後ろ暗いスキームが判明したのでした。
本物を買いました
組み付けに際し、とんでもない問題(後述)があったものの、イベントが間近に迫っていたこともあり、とりあえず1度は(半ば無理矢理)組み付けて使ってみました。
しかしその後、やはり自分の中で納得できない部分もあり、「絶対に間違いなく本物」なENVE Compact Road Barを購入しました。
それが写真下にある真っ赤なENVE Compact Road Barです。
こちらも懲りずにヤフオクで買ったものですが、出自がかなり特殊な一品で、そのために「100%本物」という確信がありました。
というのも、もともとENVEは黒色と、昔のロゴで白色の2色しか存在しないのですが、こちらの真っ赤なハンドルはイギリスのロードバイクメーカー「Factor(ファクター)」の完成車、Vis Viresから取り外されたものだったためです。
グランツールを観る方でしたら、FactorはAG2R(アージェードゥゼール)の駆るバイクといえばわかりやすいですね。
Factor Vis Viresは2013年に発売されたモデルで、現在はラインアップにはありませんが、当時の完成車価格で100万円をゆうに超えており、各パーツも各社最高グレードのものがおごられています。そのためハンドルバーもオリジナル塗装を施したENVE製が採用されたのでしょう。
現在出回っている偽物とはロゴが違いますし(2013年のバイクに付いていたパーツなので旧ロゴ)、偽造しずらい特殊なカラーも含めて、99.9%本物と考えて良いと思っています。
本物と偽物の見分け方
予期せずして、同じカーボンハンドルの本物と偽物が揃ってしまいましたので、一体どんな点が異なるのか、どこで見分けるべきかを紹介していきます。
①バーエンドプラグ


ENVEのハンドルバーは、特殊なバーエンドプラグが付属しています。
ゴムで出来た半球状のカバーと、それを止めるプラスチック製の栓(プラグ)の2パーツで構成されたこのプラグは、ゴムを反転することでプラグをつけたままバーテープを巻くことができる優れもので、走行時や輪行時の不意の脱落にもとても強いのが特徴です。
上の写真は左が本物、右が偽物です。
一見してすぐにおわかりいただけるかと思いますが、本物は栓がきちんと奥まで入ってゴムのカバーとフラットになっているのに対し、偽物は精度が悪いせいか栓が中途半端な位置で止まってしまいます。ちなみにどんなに頑張ってもこれ以上入ることはなく、栓部分をつまんで引っ張るだけで簡単に外れてしまいます。
取り外したバーエンドプラグを並べてみました。明らかに製品の加工精度が異なることが見て取れると思います。
偽物は本物に比べゴムが軟質で、バーエンドへのハマり方も弱くなります。一方本物はゴムが非常に硬く、プラグを嵌めるのも抜くのも一苦労です(YouTubeに脱着方法を解説した公式動画がありますが、基本的にプライヤーなどがなければ外せません)。
②ブラケット部の精度
これが前述した「とんでもない問題」。たまたま外れの中でも一番ひどいものを引いてしまっただけなのかもしれませんが…。
STIレバーを取り付けるためのバンドが、滑り止めの梨地処理されたあたりでつっかえてしまい、写真の位置より上に行かないのです。しかも両方。
今まで何度かハンドル交換をしてきましたが、どんなものでもここはするっと通りました。当たり前のことなんですが。
ここまでひどいものは初めてで、本当にビックリ。
で、どうしようも無いので、STIレバーを取り付けた状態で力任せにグリグリ上げていくと、梨地処理の加工どころか塗装の表面まで剥がれてしまう始末。
これが、どうしてもこの偽物ハンドルを使い続ける気にならなかった最大の理由です。
ちなみに本物の方は(当たり前ですが)するするーと入っていきました。
おそらくですが、本物の型を取って形状だけ丸々コピーし、品質の低いカーボンで生成しているために、こういった加工の難しいベンド部などは特に精度が悪くなるのでしょう。
レビューやヤフオクの評価をみた限りでも、偽物の全部が全部こうでは無いのだと思いますが、ここまで酷いとは思ってもいませんでした。
③塗装・プリントの精度
ステムクランプ部は、ブラケット部と同様に梨地処理されており、さらにジオメトリのプリントがされています。
書いてある文字はおそらく正規品と同じ(海外フォーラムでは締め付けトルクが5.5Nmが正しいのでは?という意見もありましたが)ですが、プリントの位置が雑で、梨地部からはみ出てしまっています。
今回買ったハンドルは1つ前のロゴのため、単純な比較はできませんでしたが、ebayなどで本物と思われるものと見比べたところ、ほとんどが左右に同程度の余白があり、当然ですがプリントは梨地部の中に収まっていました。
また、表面の塗装にも気泡などがいくつか入っており、通常の製品であればありえないことです。
④ロゴの形状
ENVE Compact Road Barは、新しいロゴになってから、ロゴの部分を一段階掘り下げて中を黒塗りするようになったようです。しかし、その点も偽物は詰めが甘く、切削時のバリなどが残っています。
そして本物と偽物でロゴの形状をよく見比べてもらうとわかりますが、本物に比べて偽物はロゴの字体の曲線・直線の処理が雑です。
わかりやすいように、線とキャプションを入れました。
例えば、ENVEの最後のEの真ん中の棒の端は本来直角なのですが、偽物は角が取れたように丸まっています。
また、NVの「\\\」のような逆スラッシュの下端は、本来水平に揃っていなければなりませんが、偽物が3本目が大きくはみ出ており、不揃いになっています。
このように、偽物はハンドル形状こそコピーできても、ロゴは原本がなく写真データなどから引っ張ってくるものが多いため、ENVEのような複雑な形をしたロゴは、完全にコピーできません。
⑤シリアル番号
本物のシリアル番号はフラット部の裏面に刻印で入っており(画像ではモザイクをかけています)、またシリアル番号の記載方式(GF以降の14桁の英数字)もENVEのシリアルナンバーを登録するフォームのものと一致します。
しかし偽物はシリアルナンバーが入っておらず、ENVE.comを見ろという円形シール(これは現行の本物にも付いています)とQRコードが書かれたシールだけです。丸いシールについては中に空気が入ったままという手抜きっぷり。
ちなみにシリアルナンバー?の記載されたQRコードシール、QRを読み込んでも上に書いてある英数字が表示されるだけで、シリアルナンバーとしての意味は全くなしていません。当然、ENVEのサイトでは製品登録できません。
⑥バーエンド穴の加工精度


本物は塗装によるわずかな歪みがありますが、カーボン自体はほぼ真円なのに対して、偽物は若干楕円形に歪んでいます。これは、前述したバーエンドプラグがしっかり奥まで入っていかない要因の一つでもあるようです。
見分けがつかない部分
重量


ハンドルバーの重さについては、どちらもC-C420mm・バーエンドプラグ3g×2の計6gを装着した状態(よって実際の値は上の写真から-6g)で、ほとんど差がありませんでした。
公称値が206g(420mm)なので、どちらも少し重すぎる気がします。
ただ、ちょっと現行ラインとは異なる昔の製品(2013〜2014年あたり?)ですし、またカーボン製品の重量は割と上にぶれることが多いので、特に気にしていません。
強度
偽物を取り外した後、壊れることを前提で思いっきり左右から内側に向けて力を掛けてみたりしましたが、若干たわむ程度でした。単純な強度はかなり高いような気がします。ただブラケット部の問題があり、長く使えなさそうな気がしています。
(追記)ENVEに念のため問い合せました
99%本物と(私が)思っていても、やはり多少の不安はありました。
そこでENVEにメールでシリアルナンバーを送付し、正規品かどうかの確認を依頼。
ENVEの販売サービス部門のブライアン氏からのその後の返答で、シリアルナンバーの部分を含め、いくつかハンドルバーの写真を送ってくれ、と言われたため、ここに載っている写真を数枚送付しました。
すぐに返事があり、本物(genuine)だと言うことが分かり一安心。
ENVEには以前にも「公式ウェブショップから日本へ発送できないか?」と言う質問をEメールでしたことがあったのですが(発送先の国名で日本が選択できないため)、すぐに返事があったので、メールでの問い合せ自体は慣れたものでした。
その時の返答は「日本での販売は正規代理店のアメアスポーツジャパンに卸しているからそちらから買ってくれ」とのことでしたが笑 代理店通すとバカ高くなるから直輸入したかったんですが
有名がゆえに偽物の多いENVEですが、こうしてユーザからのレスポンスに迅速に対応してもらえると安心できますね。
偽物を掴まないために
今回は高い勉強代となってしまいましたが、結局最終的には珍しいカラーのレア物を手に入れることができたので、結果オーライだと思っています。
ただ、やはりヤフオクのカーボンパーツは魔境ですね。個人的な体感ですが、出品物の半分以上が偽物なのではないかと思います。
しかし、バッグや時計などのブランド品と異なり、偽物であることを実証することが難しく、万が一偽物を掴んでしまったとしても、出品者との連絡が取れずに泣き寝入りすることも少なくありません。ヤフオクはショップの取引の偽物には補償をしてくれますが、個人間取引の場合はほぼノータッチですからね。
ヤフオクで偽物を回避するために、いくつかの自衛策はあります。
まず、「短期間に何度も同じ商品を売っている出品者」。特に写真すら同じものを使いまわしていたら、大量に偽物を仕入れて販売している可能性が大きく上がります。
特に今回のENVEのカーボンパーツのような、そもそも国内流通量が非常に少ないハンドメイド製品を大量に売っているなんてことは本来ありえません。
次に「出品者の居住地域」。海外発送で中国から国際郵便で2〜3週間程度…なんて文字があると、AliExpressなどの通販サイトからのドロップシッピングの可能性が高いです。
例外として台湾発の場合は、大手メーカーのOEM製造元が集中していることから、「本当に本物」「正規工場からの横流し品」「中国経由の偽物」という可能性があるため、一概には偽物とは言えませんが、見分ける自信がない場合は避けるのが懸命です。
「写真が不鮮明」というのも判断材料になります。
今ヤフオクのシステムでは1枚3MBの写真を10枚までアップロードすることができますが、このご時世に不鮮明な写真を3枚だけ、というのは、何かしら後ろめたいことがある証左です。
偽物が多いマーケットのなかで、本物だという自信があるなら、詳細な写真を何枚もあげますからね。
最後に「新品」「正規品」というタイトル。普通の人はロードバイクの高価なパーツを一度も使わないで販売なんてことはおおよそありえません。
だいたい一度は組み付けて数キロ使って合わなかったり、使っていなくても新車取り外し品だったりするのがほとんどです。
ただ、だからと言って「中古品」が安全かというと決してそうではなく、偽物だと知らずにヤフオクで購入し一度使った後偽物と知らずにそのまま再出品している、というケースもあります。
色々と問題のあるヤフオクのロードバイクパーツ市場ですが、使いようによっては貴重なパーツが安く手に入ったり、セカンドハンド品を格安で入手できる有用な手段です。
「嘘は嘘であると見抜ける人でないと(ヤフオクを使うのは)難しい」ではないですが、よく検討し、しっかりと見極めた上でヤフオクを使うのが賢い消費者のあり方ではないのかなと考えてます。