ロードバイクのチェーンオイル。
グリス同様「最適解」というものが存在せず、しばしば論争を引き起こす、ロードバイク用ケミカルの筆頭です。
そして先日、アメリカのCERAMIC SPEED(セラミックスピード)社から、まったく新しいチェーンオイル*1が発売されました。
それが、チェーンを「コーティング」する、という新しい概念の「UFO DRIP(ユーエフオー・ドリップ)」です。
180ml入りのボトルの価格はなんと8,300円。1mlあたり46円、1リットルになおすと46,000円です。フィニッシュラインの一般的な製品の約6倍のお値段です。
ちなみに、人間の輸血用血液の価格が1リットル45,000円らしいですから、それとほぼ同じ価格ということになります。
というわけで、血液と同じ値段のこのコーティング剤を使ってみました。
なぜUFO Dripなのか
なんでこんな高いものを使ったのかというと、まず新しいものに対する興味本位です。
次に、ウェットルブを使うことによるチェーンの汚れに辟易していたためです。
「じゃあ従来のドライルブを使えばいいじゃないか!」と言われそうですが、せっかくだから新しい技術を使ったものを体験してみたいじゃないですか。
今まではAZのロードレースSPというウェットタイプのチェーンオイルを使っていたのですが、私がロングライドするとなぜか毎回雨に降られ、120km走ったあとにはチェーンは真っ黒、翌日の掃除にチェーン・スプロケットだけで1時間以上かかるなんてことが数回ありました。
ロードレースSPも耐水性はあるし安いし良いオイルなのですが、私の用途とはあまり合致していないんですよね。
それに対してUFO Dripはどうやら事前にしっかりと脱脂・洗浄を行ってコーティングしておけば、それ以降は200kmごとの塗布だけで済むようで、面倒な掃除の手間が省けるのでは、と考えたのが最大の理由です。
ただこの製品、本来はこのような「汚れの付きにくさ」ではなく、ラボで4000時間以上のテストで駆動抵抗が〜という話がメインです。
CERAMIC SPEED社のテストでは2位のSquirt DRY LUBEよりも20%低抵抗でぶっちぎりの1位。
また、実走行を模した「砂塵を吹き付けながらの抵抗の変化」においても他社チェーンオイルは軒並み30分後には抵抗が増している中、UFO DRIPは変化なし…
などと、実験に基づく素晴らしい性能の潤滑剤のようです。
…しかし数ワットの変化など、私のようなアマチュアレベルではほぼ体感できないと思われるため、そちらに関してはレースなどで使用している方のレビューを参照することをおすすめします(丸投げともいう)。
購入〜開封
いつもどおりAmazonで購入しました。
大仰な箱に入ってやってきました。もう既に高そうです。
中のボトルも、チェーンオイルの入れ物には見えませんね。
日本語の説明書も付属しており、コーティング施工手順も図入りで説明されているので作業に躓くことはなさそうです。
元々使っていたチェーン(ヤフオクで買ったKMC DLCチェーンのバルク品)に使っても良かったのですが、もうかなり使い込んでおり若干伸びもあったので、チェーンも交換することに。
SHIMANO・アルテグラグレードのCN-HG701-11です(なぜか間違ってクイックリンク無しのを買ってしまった)。
ただ、105グレード(HG601)との差がSIL-TEC(フッ素コーティング)の加工部分の差だけなので、結局UFO Dripでコーティングするのであればそちらでも良かったかな、と思っています(最上位のDURA-ACEはリンクピンに穴あき加工がなされ軽量化されているのですが、105とアルテグラは、リンクピンとインナーリンクにSIL-TEC加工がされているかどうかの違いだけみたいです)。
コーティング施工
新品のシマノチェーンは、すぐに使えるように(輸送中の錆保護という理由もありますが)予めグリスが塗布してあるのですが、これも今回の用途には邪魔なので洗浄します。
汚れたチェーンであればジップロックに入れて超音波洗浄するのですが、新品なのでそのままドボン。チェーン表面のベタベタがなくなるまで丁寧に洗浄します。
続いて、カセットスプロケットも洗浄します。油汚れがびっしり付いていたので、ブラシを使って丁寧に清掃。
とりあえず説明書通りにまずチェーンを取り付けます。
塗布方法は2種類記載されており、左の写真のようにスプロケットの上にあるチェーンを逆回転させながらカセットにUFO Dripを流し込んで飽和するまで(垂れ落ちるまで)注入する方法。
もう一つは従来のチェーンオイル同様、チェーンのローラー部分に一コマずつUFO Dripを滴下する方法。
時間がかからないのはスプロケット直入なのですが、血液よりも高い液体をみだらに使いたくないため、1コマずつ注していきました。
なお、塗布時の推奨温度が定められており、最低10度以上、安定した作業をするためには20度以上の環境で行うことが必要です。
今回は北海道でも夏だったので問題ありませんでしたが、秋〜春にかけての作業は注意が必要ですね(寒いと液体の粘度が下がり、ノズルを詰まらせるようです)。
注入が完了するとこのように、半透明のグリスのような物体がローラーの周りに付きます。
この状態で一晩放置し、完全に硬化するまで待ちます。
ただし、1コマずつ慎重に滴下しても、このように余ったUFO Dripが下にぼたぼた落ちてしまうので、バイクの下にウエスなどを敷くことを推奨します。
残念だったのは、ボトルの注入口の形状が良くないため液切れが悪く、コーティング剤が垂れてボトルや手をベタベタにする点(米アマゾンでも指摘されていました)。
可能であれば、別の注入用ボトルに移し替えて作業したほうが良いかもしれません(ただし金属製のニードルが付いたボトルは詰まる可能性があるのでおすすめしません)。
硬化するとこのように白く固まります。チェーンを回転させると余分な固形分が落ちますが、室内でやると汚れるため、固まった状態になればそのまま走りに行っても良いかと思います。
実走・インプレ
というわけで、先日UFO Dripを施工したチェーンで80km程度の練習を行ってきました。
曇りの予報でしたが、当然のごとく帰り道で土砂降りを喰らい、いつもならチェーンやスプロケットは砂や油汚れでドロドロになっている状態です。
目的地の湖畔まで40kmの道のりを300m登って、帰りはずっと下り坂というコースだったので、復路はずぶ濡れになりながら平均30km/hで走り続けたのですが(寒くて早く家に帰って風呂に入りたかった)、ご覧のようにバイクは巻き上げた砂やホコリでドロドロ。
ただご覧のように、いつもは真っ黒になるスプロケットとチェーンはかなりきれいな状態でした。スプロケットの隙間は流石に汚れてしまっていますが。
また、チェーンオイルのような油分を使っていないため、洗車時の汚れも良く落ち、チェーンステーなどへ付着する油汚れも皆無でした。油が付いていると洗車が面倒なんですよね…
プーリーもいつもなら泥が詰まって偉いことになっているのですが、それもほぼ皆無。
クランクやフロントディレイラー周りも、雨の中40km走ったとは思えないほど、綺麗に保たれていました。
抵抗の少なさという点は予想していたとおり、ほぼ実感できなかったのですが、いつもなら雨の中を走行するうちにすぐにオイルが切れてシャリシャリ音が聞こえ、ペダルが重たくなるなか、UFO Dripを使用した状態ではそれが全く感じられませんでした。ドライルブと比較してこの点は非常に優秀です。
メーカーとしては200kmごとの塗布を推奨しており、個人的にもこのままの状態であと100km走れるかと言われるとはっきりと「NO」といいますが、悪天候に見舞われる可能性の高い長距離イベントなどではかなり使えるチェーン潤滑剤なのではないかと思います。
また、2回目以降の塗布であれば、初回のような面倒な完全な洗浄は不要で、そのまま塗布してよいみたいですが、その場合汚れが表面に浮き出るようなので気になる場合は水などで軽く流しておくのが良いかもしれません。
ネックなのはやはり価格ですが、初期投資こそ嵩むものの、長い目で見ると意外とオトクなのかもしれないと考えています。
このUFO Dripは一回の使用で多くても10ml程度使いますので、少なくとも18回分・理論上は3600km使用可能なんです。
つまりチェーンの(推奨)寿命1回分以上は使えるため、金属コーティングされた高額なチェーンを買ってコンベンショナルなオイルで管理するか、安価なシマノ製チェーンを買ってこのUFO Dripで管理するかでは、どちらもほぼ同じ金額になります。
初回こそ面倒ですが、それ以降は手間のかかるチェーンの洗浄から開放されると考えると、あまり高くない気がしてきませんか…?(いや、高いか)
今回は、予期せず初回からこのようなハードな使い方をしてしまいましたが、それがかえってUFO Dripの高い防汚性と耐水性を発揮する結果となりました。
私のような貧脚にはもったいない価格と性能の商品ですが、これからも(無くなるまでは)使用し続けようと思います。
*1:厳密にいえばオイルではありませんが