長い長い旅が、ようやく終わったのかもしれません。
先日100km程度のロングライドイベントに出た際、終始尻と陰部が痛く、いったいなんでこんな拷問みたいなことをしているんだろう…と思い、本腰を入れてサドルを探すことにしました。
そこで目をつけたのが、今までその特異な形状で敬遠し候補にも入れていなかった、イタリアのSelle SMP(セラ・エスエムピー)。
その評判はネットのレビューでも真っ二つに分かれており、「サドルが消える」「もう他のサドルには戻れない」「安楽椅子」という圧倒的な高評価の声と、「地獄の拷問器具」「三角木馬」「ケツがもげる」などと、酷評されているのも多いのです。
天国と地獄、果たしてどちらなのか?今回は、実際にレンタルサドルで自分に合うものを探すところからはじめました。
Selle SMPのラインナップ
数多くのサドルを出しているセラSMPですが、大きく分けて2つの形状があります。
幅が狭く、サドル後部の坐骨の当たる位置が窪んでいる「Composit(コンポジット)」ベースと、幅がやや広く、窪みの無い「Forma(フォーマ)」ベースです。
Composit・Formaはともにパッドがなく、ベースの樹脂に革が貼ってあるだけです。
この2つのベース形状に、薄いパッドが入ったものが「Blaster(コンポジットベース)」「Dynamic(フォーマベース)」、厚いパッドが入ったものが「Evolution(コンポジットベース)」「Drakon(フォーマベース)」となっています。
さらに上位モデルとして座面もフルカーボンのモデルや、価格が抑えられたエントリーモデル「HELL」などもありますが、ここでは割愛します。
というわけで、Selle SMPのサドルを選ぶ際は、まず自分のお尻が「Composit」「Forma」のどちらの型に合うのかを知る必要があります。
ただ、セラSMPのメインストリーム・サドルは一個20,000円以上と、気軽に買えるようなものではありません。買って合わなかったら即ヤフオク行き、ということも出来なくもないですが、面倒くさいです…
そこで便利なのがレンタルサドルサービス。セラSMPの日本正規輸入代理店であるMIZUTANIのホームページにはレンタルサドル取扱店のリストがあり、各店レンタル料金や期間はまちまちですが、安価に自分に合うセラSMPサドルを試すことが出来ます。
私も普段はほとんどインターネットで買ってしまうのですが、サドルばかりは実際に試してから買いたかったので、レンタルサドルを利用してみることにしました。
レンタルサドルを試してみた
レンタルサドルをお借りしたのは札幌の「サイクルショップおかべ」さん。
私はこちらのお店を利用するのは初めてなのですが、電話でのレンタルサドル在庫確認や、実際にお伺いしたときもとても快い対応をしていただきました。
こちらでのレンタルサドル料金はセラSMP3種類の2週間貸出し(コンポジット、フォーマ、ダイナミック)で3,240円。ただ、レンタル後にこちらのお店でサドルを購入した場合、レンタル料金分がそのまま購入金額から引かれます。
試したかったベース形状の違うコンポジットとフォーマに加え、パッドの入ったダイナミックではパッドの有無の必要性の判断もできることから、今回は3種類全てお借りしました。
テストサドルはレッドとイエローのツートンというド派手なカラーリング。
手前からパッド入りのダイナミック、幅広のフォーマ、幅狭のコンポジット。
ダイナミックとフォーマは形状こそ同じですが、パッドの有無の差で実際に座った印象はかなり異なります。
こうして実際に並べて比べてみると、フォーマ型は座面横の曲率が大きく丸みを帯びており、コンポジット型は曲率が小さく角張って見えるのが分かると思います。
ダイナミックのパッド厚さは、ちょっと分かりづらいかもしれませんがこんな感じ。厚みは2、3mm指が沈み込む程度で、本当に必要最低限といったところ。パッドたっぷりのふかふかなコンフォート系サドルとは全く異なります。
それでは、3種類のサドルを試していきましょう。
私は今までの経験や実際に自分の坐骨幅を計測した数値から、座面の幅が広いサドルを選ぶことが多かったので、まずは座面幅の広いフォーマを試してみます。
とりあえず公式推奨の通り、座面の後端と先端の一番高い位置が水平になるようにセット。
…あっ…すごく痛い。坐骨が。これは無理だ。
もう座った瞬間に「あ、これ合ってないわ」と分かるレベルで坐骨がゴリゴリします。ペダル下死点に至っては太股が擦れるしケツがもげそうです。
前後位置や角度なんかを色々と試してみましたが、どこの位置でもしっくり来ませんし相変わらず坐骨が痛いです。
次にパッド入りのダイナミックです。
ただ、同じ形状のフォーマが合わなかったのですから合うわけがありません。パッドが入ったことで、多少は坐骨の痛みは軽減されますが、これでロングライドは無理です。
レンタルサドルを検討する前は、インターネット通販で(その時は自分に合うと思い込んでいた)フォーマを買う予定だったので、この時点でちょっと絶望し始めます。
あぁ、またサドル沼か、と。
それと同時に、試しもせずにフォーマを先走って買わなくて良かった…とちょっと安堵もしていますが。
さて、最後にコンポジット。こんな幅の狭いサドル合うはずないだろ…と思いながら取り付け、座ってみます。ちなみにここまで、3種類ともまだレーパンは履いておらず、普段履きのチノパンで座っています。
…あれ?全然痛くない。痛くないどころか、ものすごくしっくり来てるんですけど??
上の写真で、SELLE SMPの刺繍の上部分がコンポジットは凹んでいるんですが、そこに坐骨がぴったりハマります。
驚きと喜びで興奮しながら、まだ慌てるような時間じゃないと自分に言い聞かせ、レーパンに履き替えます。
サドルが…消えた…?
もともと普通のズボンで座った状態でも、ほぼサドルからくる圧痛はなかったのですが、パッド入りのレーパンに履き替えて座ると、もはやほとんどサドルの存在を感じなくなりました。
いや、正直言ってこれまで「サドルが消える」というネットの意見はさすがに言い過ぎでしょ、と思っていたのですが本当なんですね。
前後位置・角度を更に微調整し(水平よりわずかに前下りが特にしっくり来ました)ポジションを出した後、固定ローラー台でビンディングシューズもつけて、高めのケイデンスで30分ほど漕ぎ続けてみましたが、一切お尻や陰部の痛み・痺れ無し。
レンタル期間はあと10日以上残っていたのですが、もうこの時点で購入確定です。
最後に悩んだのはパッドの有無(CompositかBlasterか)なのですが、そもそもパッドに関していえばレーパンのパッドでどうにかなる上、パッドのない普通のズボンで座っても全然痛くないので、むしろパッドがあると厚みがあるぶんまた座った感じが異なってしまい、せっかくしっくり来たこの感じが変わってしまうのではないか?という懸念があり、パッドのないCompositを選ぶことにしました。
Composit購入
というわけで、レンタルからわずか5日後に返却し購入することに。
サイクルショップおかべの店長さんいわく、Compositが合う人は久々ですとのこと。
レンタルサドル返却時は店頭に在庫がなく(Formaは人気が高いらしく5個位在庫がありました)、代理店から取り寄せ・到着後連絡となりましたが、3日後に電話があり、受け取ってきました。
価格は先払いしていたレンタルサドル料金3,240円を引いて、更に1割引した金額で21,000円くらい。定価が25,000円+税なのでこんなもんでしょう。
今まで買ったサドルのなかでは決して安い買い物ではありませんでしたが、私にとってはそれだけの価値がありました。
カラーはブラックを選択。今乗っているロードバイクの色が、ブラックと差し色でレッドを使っているので、ここはいっちょ赤にしようかなとも思いましたが、結局無難なほうにしました。
ちなみに2018年モデルから、サドルのグラフィックが変更になっているようで、「SELLE SMP」のロゴが大きくなりました。ただ、刺繍なのは変わっていません。
ネットでのレビューを見ていると、刺繍のせいでレーパンが痛むとか、刺繍糸が汚れてくるといった意見も多かったので、プリントか刺繍か選べるようにしてくれるといいですね。
後部のステッカー(左右の座面の下)のデザインも変更になったようです。右のステッカーはちょっとずれてましたが、イタリアンクオリティということで…
このあと、サドルの後ろから出ている紐は、ピロピロしてて邪魔なので切りました。
サドル側面にあったモデル名の大きさも、やや前方に移動し、小さく目立ちにくいものに変更されています。
シートレールがカーボンのもの(40,000円)もありますが、15,000円多く払ってわずか50gの軽量化はちょっとコストパフォーマンスが悪すぎます…。
そういうわけで通常のステンレス鋼レールを選択しました。テストサドルの目盛りはほとんど消えていましたが、新品購入したこれも、既にちょっと印刷が掠れているところがあったので、そういうものなんでしょう。
重量は230g。メーカー公称値が210gなので、ギリギリ±10%以内ですね。
水準器があったはずなのですが見つからないので、スマホアプリの水準器を使いました。
前下り2°で取り付け。テストサドルで前後位置と傾きはすでに調整してあったため、取り付けとポジション出しはすぐに済んで楽でした。
早速レーパンを履いて、小1時間ほど固定ローラーで練習。
新しいサドルですが、同じカタチのものをもう何度も座って試したものですから今更感動はしませんが、本当にしっくり来ます。
元々そこに有ったもののよう、というか、サドルという自転車と人体をつなぐ接点が一体化したような印象。
これなら100kmどころか200kmでも走れるような気がします。
まとめ
私にとってサドル沼のゴールになった(はず)SELLE SMP Composit。
ただ注意していただきたいのは、人によってはフォーマ型のほうがあうかもしれない、という点です。
とりわけ形状が特殊なSMPのサドルは、人の意見を鵜呑みにして試しもせずに買うと絶対後悔すると思います。
私も最初はそれまでの経験からフォーマが合うと思い込んでいたため、試しもせずにフォーマを買おうとしましたが試乗すべきという意見が多かったため踏みとどまり、面倒でもレンタルサドルを使い、自分に合うものを見つけ出しました。
この記事を読んで「Composit買ったろ!!」と思っていただけるのは嬉しいですが、まずは近所の自転車屋でレンタルサドルを試してみてからでも遅くはないと思います。
ちなみにレーパンはRedWhite(レッドホワイト)という、扇風機や掃除機で有名なDyson出身のエンジニアが立ち上げたメーカーが作ったビブショーツ、その名も「THE BIB」というものを履いているのですが、これ、メチャクチャ良いですよ…。
サドルが消えたように感じたのも、半分くらいコイツのおかげだと思ってます。
まだ知る人ぞ知るといった知名度ですが、パールイズミとかの大手メーカーと比べても価格的に変わらないので、ブルベなど長距離やる人にはぜひ使ってみてほしいです。