エス・テー・デュポン(S.T. Dupont)というフランスのライターメーカーがあります。
ドラマ「白い巨塔」で唐沢寿明演じる財前教授が使っており、タバコを吸うシーンで「キーン」と甲高い金属音を鳴らしていたのを見てから、いつかは買おうと思っていたので、タバコを吸い始めてすぐに同社の「ギャッツビー」というモデルを購入しました。
ちなみにあの反響音が鳴るのは「ギャッツビー(GATSBY)」「ライン2(Ligne 2)」の2ラインのみで、ギャッツビーはライン2を小さくしたモデルです。
これ以来このライターの魅力に取り憑かれ、良い音が出るように色々と試行錯誤しています。
先日、中古でライン2を購入しました。しかし着火不良(火花は飛ぶがガスが出ない)で分解清掃が必要になったため、今回は備忘録も兼ねて写真付きで分解方法を解説します。
今回写真で写っているのは「ライン2 16931」ですが、基本的な構造はギャッツビーでも同じですので、ギャッツビーの分解・修理の場合も、同様の手順で行ってください。
-注意-
こちらの記事を参考に分解・修理・清掃作業を行う際は、必ず自己責任でお願いします。
万が一、ライターの損傷や故障などの不利益が生じた場合でも、当ブログでは一切の責任を負いかねます。
事前の準備
作業に使う道具・工具
①キムワイプなどのホコリの出ないウエス
各部の汚れを拭き取る際や、超音波洗浄器を使った後のふき取りに。
②エアダスター(凍結しないもの)
細かい部分のスス・ホコリ飛ばし、超音波洗浄器を使った後の水分飛ばしに必須。
各パーツの洗浄、特に細かいネジ穴や、手の届かないガス噴出口の中の洗浄に使用。
ヒンジピンを自作する際に使用(蓋/ヒンジ調整編で使用します)。
⑤ラジオペンチ(ピンセットラジオペンチだと更に便利)
ヒンジピンの抜き取り、リューター作業の時の固定などにあれば便利。
0.9mm〜1.8mmくらいまでのサイズで、3本ほど必要。
細部の作業に必須。ストレートタイプに加えて、鶴首タイプのものもあれば更に便利。
ヒンジピンの圧入時や反響板の調整、蓋の調整時に使用。
⑨ルーター
ダイヤモンドビットを使い、ヒンジピンの作成に。またはフェルトバフを使って細部の磨き上げ・清掃にも。
⑩綿棒
ベンジンなどのクリーナーで細部を清掃するときにあると便利。
⑪ヘッドライトまたは精密作業用ライトなど
蓋を組み込むときや、反響板の調整をする時にあると作業が楽。
もちろん、全てが必要なわけではなく、手元にあるもので代用しても問題ありません。
ただし、超音波洗浄器は絶対にあったほうが便利です。
反響音の調整・ガス詰まりの解消にも一役買いますし、アクセサリーや時計、メガネなど、色々なモノの洗浄にも使えます。一家に一台。
ガス抜き
作業に先立って、まずはガス注入口(ライター右の細い穴)を精密ドライバーなどで押して、内部のガスを完全に抜いてから作業しましょう。
この作業を行わないと、ずっとガスが出続ける中で作業することになり(デュポンのライターは、蓋が開いている間はずっとガスが出続けています)、万が一火がついた場合、爆発などの恐れがあり非常に危険です。
また、シャープペンシルや爪楊枝などは、芯や先端が折れて注入口の中に入ると故障の原因となるので、絶対に使用しないでください。
分解作業
火力調節ユニットの分解
「ガス抜き」の項の写真、底面左側にあるマイナスネジを外すと、火力調節ネジが外れます。
火力調整ネジを取り外すと、中心の歯車に環状の薄い金属板(火力調節範囲を制限する金具)が付いているので、これをピンセットなどで摘んで外します。
金属板を外した後、最初に外した火力調節ネジを再び差し込んで、反時計回りに回します。半周すると火力調節ネジ側についている突起がライター側の突起に引っかかるため、ずらして挿し直して反時計回りに回す作業を繰り返すと、歯車のついた部品が外れます。
これを外すと、ボールベアリングの金属球がフリーになるので、無くさないよう注意してください。
この状態でライターをひっくり返すと、更にニードルのついた細長い部品が外れます。
スプリングがニードル側に被さっているので、こちらも無くさないように注意しましょう。
メインユニットの分解
フリント(発火石)を交換するときと同じ要領で、側面のピンを押し下げ、上部ユニットを外します。
そうすると、ローラーヤスリとフリントが取り出せます。
フリントが入っているスペース内に、2箇所マイナスネジがあるので、外します(上の写真、青い矢印の場所)。
メインユニットには、2箇所にスプリングがついたパーツが組み込まれています。下のパーツは上部ユニットを固定するピン、左のパーツは蓋のヒンジ部分に付いている黒い突起が嵌り、蓋が開くときのスプリングとなります(後述)。
これが上手く機能しないと、ガス漏れの原因になったり、蓋の閉まりが緩くなり、反響音がならない原因となるので、絶対に無くさないようにしてください。
メインユニットを外すと、ローラーも外せるようになります。ポリッシュなどで磨く場合は、外した状態のほうが楽ですね。
ローラーが収まっている場所の裏には、打刻(青い丸)があり、エステーデュポン本社の製作者の銘だと思われます。これは以前所持していたギャッツビーにも入っていました。
つまり、この刻印がない場合は偽物の可能性がかなり高くなります。出処の怪しいデュポンライターの場合は、この部分もしっかり確認しておきましょう。
メインユニットを外すと、本体側か、メインユニット裏のどちらかにOリングがくっついていると思います。これが付いている穴からガスが出ますので、Oリングをなくしてしまうとガス漏れの原因となります。
メインユニット側にくっついているときは気づきにくいので、必ず確認して下さい。無くすと探すのがめちゃくちゃ大変です(経験者)。
ここまで外したもの
ネジなどをの細かい部品を取り違えないように、各部位ごとにまとめてウエスの上などに置いておくと、組立時に楽になります。
蓋の分解
いよいよデュポンの反響音の中枢ともいえる蓋の分解作業に入ります。
蓋は直径1mmくらいの非常に細いヒンジピンで本体に固定されています。
0.9mmのマイナスドライバーを当てて、ゴムハンマーでドライバーの尻を叩きます。腕時計の駒詰めで使うような器具がある場合は、そちらを使うと本体に傷をつける心配がありません。
蓋が外れました。ヒンジピンはとても小さいので、叩いた衝撃で飛んでいかないように気をつけてください。下に厚めのタオルなどを敷いて、ちょっとずつ優しく叩いていくのが上手く外すコツです。
蓋側のヒンジピンが通る穴には、金色の小さな筒状のパーツが入っています。ススなどで蓋の穴の中に固着している場合が多いと思いますので、紛失に気をつけてください。
ついでに蓋の中の反響板(化粧板)も外しておきましょう。反響板を抑えるネジは柔らかく、とてもナメやすいので注意が必要です。
清掃作業
ここからは、取り外したパーツを清掃していきます。
水に濡れても問題のないパーツは、まるごと超音波洗浄器に入れて洗浄します。この時、洗浄槽に中性洗剤(食器用洗剤など)を1、2滴垂らすと、洗浄力がアップし効果的です。
私の使っているシチズンの超音波洗浄器はタイマーで最大5分間運転します。洗いすぎるということはないので基本的に毎回5分で洗浄しています。
洗浄槽からピンセットなどで取り出した後は、キムワイプなどで水分を拭きます。
メインユニットなど形状が複雑なパーツや、奥まったネジ穴などにはエアダスターを吹き、水分をよく飛ばしてください。
なお、ガスタンクが付いているライター本体には洗浄器が使えませんので、ベンジンなどを付けたワイプや綿棒などで清掃します。
画像でもわかると思いますが、ヒンジ周りは煤で真っ黒なので、特に念入りに清掃しましょう。
ルーターでフェルトバフなどを使って磨き上げると、さらに綺麗に仕上がります。
最後に、エアダスターで残ったススやホコリを吹き飛ばします。
上の写真が、メインユニットを超音波洗浄器にかけて拭き上げた状態です。最初の方の画像と見比べていただければわかると思いますが、超音波洗浄器だけでここまで綺麗になります。
このライン2の場合、Oリングのついた穴から噴出口までのルートの間でススなどが詰まっていたようで、この作業後は問題なくガスが出るようになりました。
「ローラーを回して火花は飛ぶしガスも入る、ガス漏れもしていないのになぜか火がつかない」という問題の場合は、この程度の簡易オーバーホールで解決すると思います。
組み立て
これまで分解した手順とおおよそ逆の順番で組み立てていきます。
しかしメインユニットより先に蓋をつけてしまうと、蓋のヒンジ部のパーツが干渉して上手く組み立てられなくなるので、まず先にメインユニットをネジ止めしてください。
また、蓋の開閉時にメインユニットにこすったりして干渉する場合は、ライター左側にしっかり押し付けた状態でネジを締めることで干渉しなくなる場合があります。
メインユニット左側下の黒い半円が欠けたパーツ(赤丸で囲った部分)は写真の向き(=ライターを横から見て半円が見える状態)になるようにしてください。こうしないと、蓋側の突起が干渉してしまい、上手く蓋が取り付けられません。
蓋を取り付けるときは、ローラーが付いている側の側面を下にして置き、蓋の黒い突起を本体の黒い突起にはめます。そのまま蓋を閉めた状態に持って行くとうまく装着できます。
また、ヒンジピンを圧入する際は、ある程度まで指などで押し込んで、ゴムハンマーで垂直にちょっとずつ叩いていきます。強く叩くと折れることもあるので注意が必要です。
反響音について
デュポンライターの命ともいえる反響音。買った時はいい音がしていたのに、どんどん鈍く響かないようになってきた… 。
そういう場合、ヒンジピンや蓋のヒンジ周りに、ススなどが付着していると、反響音がかなり濁るようです。
このため、使用につれてだんだん響かなくなってくるといった症状は、今回のような超音波洗浄器を使ったオーバーホールで良くなることがあります。
このライン2もオーバーホール前は「コン!」という短く低い残念な音でしたが、オーバーホール後は「キーン」と長く高い音になりました。
欲を言えばもっと澄んだ音にしたいので、いろいろ試行錯誤している最中ですが...
また、使用に伴ってヒンジの穴は少しずつ広がっていきますので、そのために音が悪くなることもあります。
この場合、エステーデュポン修理サービスに送って新しいピンに交換してもらうか、自分でより太いピンを作って圧入する方法があります。
今回私はヒンジピンを自作しました。これについては次回解説します。
使用するガスについて
今回は、着火不良の修理が第一目的でしたので、着火確認で毎回毎回1000円もする専用ゴールドガス(使い切りタイプ)を使うわけにはいかず、100円ショップの汎用ガスボンベを代用しました。
付属のアダプタを使用することで漏れもなく注入でき、また着火性能にも問題ありませんでした。
ただ、さすがに100円ショップのガスだと精神衛生上良くないので、ウィンドミルなどの高純度ガスボンベなどであれば、代替ガスとして使っても問題ないかもしれませんね(修理規程には純正ガスを使わなかった場合の保証はしないと記載されているので自己責任で)。