「陽だまりの彼女」ベタベタのラブストーリー、ベタベタの展開、(涙で)ベタベタの顔(ネタバレ無し)

「陽だまりの彼女」(越谷オサム著、新潮社)を読んだ。
手に取ったきっかけは書店で見かけたオビの売り文句「女子が男子に読んでほしい恋愛小説No.1」という一文。
おうおう、言ってくれるじゃないか、読んでやろうじゃないの。と手に取り数ページ。中学時代に別れた初恋の子と、主人公は仕事で偶然出合い意気投合、という、ありがちな、悪く言ってしまえば使い古された展開で始まる。それでもなぜかいやな感じがせず、まあたまには恋愛小説でも読んで見るか、と購入。


 


それからはほぼずーっと恋愛小説たる展開が続く。デート、初めての夜、親への挨拶、結婚...
ただこのベタベタな展開を読んでいても飽き飽きせず読めるのは、この小説に登場する二人のカップルが心底爽やかでいやな感じがしないところ。
小説は、それはそれは他人の日記を読んでいるレベルでいちゃいちゃ描写が続くが、ふしぎとページは捲る手は止まらない。明らかな伏線が多く存在し、それがまた興味を引きつけるからだ。
私はミステリ小説を好んで読む性質からか、どんなに幸せな描写があってもそこに裏があるような気がして、穿った見方をしながら読み進めるのだが、この小説に於いても例外ではなく、イチャイチャラブラブベタベタのストーリーのなかにほんのわずかな陰が見て取れる。彼女が発する意味深な言葉、行動... そういった描写を拾いながらどこで彼女が死ぬんだろうとか、そういうことを考えながら読み進む。
しかし私の思惑通りにはならず、彼女が死ぬ訳でも、不治の病に冒されるわけでも、他の男に奪われるわけでもない。
最後の最後に溜まっていた陰の正体は明らかになるのだが、それについては人によってかなり受け取り方が異なると思う。
個人的には条件付きであるがハッピーエンド。しかしある人がみればバッドエンドになるだろう。
伏線のちりばめ方と、その回収方法はお世辞にもお上手とは言えないし、後半の真相が明らかになるあたりはあまりにも早足だが、それら欠点を忘れ去れるほど、読後の感慨は大きかった。久しぶりに小説を読んで号泣した。それはもう顔が涙と鼻水でベタベタになるほどに。(こんなに泣いたのは以前に読んだ「猫鳴り」(沼田まほかる)以来かな?)



総評としては、恋愛小説と銘は打ってあるが、SF、ファンタジー、ミステリ、それとも真の恋愛小説といろいろなジャンルにカテゴライズできる本作。特に「とあること」を家でしている人たちはほぼ例外無く感情移入し号泣出来ると思う。私もそのうちの一人なので...。また、恋愛小説にありがちな、恋愛観に対する説教くささ、愛憎渦巻くドロドロした展開、フランス書院のようなセックスの描写などは一切無いので、最初から最後までさわやかな気分で読めるヒューマンドラマといっていいだろう。おすすめ!