読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

「それでも町は廻っている」が終わってしまった

それでも町は廻っている16巻と回覧板

悲しいんじゃなくて、寂しいんです。

「それ町」との出会い

11年近く「ヤングキングアワーズ」で連載を続けていた石黒正数先生の漫画「それでも町は廻っている」が完結し、2月14日に単行本の最終巻である16巻が刊行されました。

まずは石黒正数先生、11年間お疲れ様でした。

 

私が「それでも町は廻っている」通称「それ町」に出会ったのは、10年前の大学生の頃でした。ちょうど3巻が出てすぐくらいの時期だったと記憶しています。

一人暮らしを始めて好きなものを誰にも気兼ねせずに買えるようになったため、本屋に赴いては、欲望の赴くままに漫画や小説を買い漁っていた時分です。

「それでも町は廻っている」は、その時はまだもちろんアニメ化もされていませんし、発売元も少年画報社というマイナーな(失礼)出版社の書籍のため、大きな本屋の漫画コーナーにも置いていない、ということが多かったです。

私は漫画を買う際「新規開拓」をする時は本屋をうろつくと決めており(その際気になったものがあっても絶対Amazonのレビューは見ない)、気に入った作品の継続購入はAmazonなどのオンライン書店を利用するようにしています。

なんであの時、平積みでもなかったこの漫画を手に取ったのか?私が日記でもつけていればその時の心情がわかるのかもしれませんが、今となってはファーストコンタクトの理由はまったくもって不明です。

ただ間違いないのは、その時の既刊を全巻大人買いしたことで、もしかしたらアンテナに何かビビっとくるところがあったのかもしれません。

一度購入を決めた漫画は、よっぽどでないかぎり完結まで購入し続ける私ですが、これほどまで新刊を渇望し、完結に喪失感を覚えた漫画は今までの人生で天野こずえ先生の「ARIA」と、この「それ町」くらいなので、あの時の判断は間違っていなかったのだと自分で自分を褒めてあげたいところです。

 

カテゴリの枠に嵌まらない「それ町」

そもそも、「それでも町は廻っている」ってどういう漫画?ジャンルで言ったら何?って聞かれた時に、これほどまで一言で説明しにくい漫画も無いのではないでしょうか。

私もこの漫画をよく人に勧めるのですが、まったくもって作品の内容を上手く伝えられないんですよね。

「推理小説が好きで、探偵を目指す女子高生がメイド喫茶(ただし一般的な認識のメイド喫茶ではないことも伝えなければならない)で働くことになって…」と説明したところで、もし私だったら「え、それって何が面白いの?」って返してしまいそうですし。

なので「とにかく面白いからとりあえず読め!」と返すしか無いのですが、本当にそういう漫画なんです。

ジャンルも、ある特定の分類にカテゴライズされるものではなく、たとえば日常系であり、コメディであり、サスペンスであり、SFであり、学校モノであり、群像劇であり、恋愛青春モノであり、ホラーでもある。16巻で完結した今でも、はっきりとした答えは出ないんです。

 

 

ネットで物議を醸した最終話

「それでも町は廻っている」の最終話は、2016年12月号の月刊ヤングキングアワーズに掲載されました。

 

それ町最終話

©石黒正数、少年画報社 ヤングキングアワーズ2016年12月号より引用

 

ネット上では、最終話の最後の2ページだけを切り出して、恣意的な見出しで煽る記事(主にや◯おんとか)も見かけられましたが、「それ町」はそもそも、掲載順と作中の時系列が一致していないというのは、ある程度読んでいる読者には周知の事実です。作者の石黒正数先生も何巻かのあとがきにそのようなことを書いていましたね。

 

ただ、こうやって画像を一枚ポンと貼られると、未読の人は「あー、作者がぶん投げたんだなー」と解釈されてしまう可能性もあるでしょう。実際ネットのまとめサイトなどではそういう意見も散見しました。

これについては、作者も副読本のなかで解説していて、「時系列順の最終回」についても語られています。

また、コミック版では"そこまで全て踏まえた上で"、巻末にすっきりとしたエピローグが用意されていますので、連載派の人にも是非とも見ていただきたいですね。

 

 

作者による全話解説などを収録した副読本「回覧板」

トップ画像の16巻と並んで写っているのが同時に購入していた副読本「それでも町は廻っている 公式ガイドブック 回覧板」です。

正直言って予約段階では(ちゃんと説明を読まずに脊髄反射で買ったため)こんなサイズだと知らず、よくある「ガイドブック」系と同じで単行本と同サイズだと思い込んでいたところに、A4版の馬鹿でかく重たい本が届いて驚きました。

しかし「それ町」ファンであれば、数ページ読んだだけでもその重さ・大きさの理由がわかると思います。

まず、1巻から16巻までの単行本表紙イラストを、タイトルロゴや文字無しで1ページに1枚掲載。しかも全て石黒正数先生の解説付き。

全て水彩絵の具で書いているとのことですが、巻ごとのテーマカラーや構図などにだいぶ悩まれたようで、その作品を美麗な解像度のA4サイズで見ることが出来るだけでも買った価値がありました。

続いてはほぼ全ての登場人物を網羅した描き下ろしイラスト・キャラクター設定・解説集。

作中で出てきた情報がメインではありますが、ここだけのこぼれ話も多く、次の全話解説と合わせて読み返すときなどに役立ちそうです。

 

そしてメインボリュームともいえる作者による全話解説「再読の手引き」。巻ごとではなく「全129話それぞれ」に解説が付いており、最後に作者が「小説一冊分くらい書いた」とある通りの、とんでもない文章量になっています。

この「再読の手引き」を読むだけで1時間くらいかかった気がします。

そしてこのあと、漫画を1巻から再び全巻読み始めたのですが、エピソード1話ごと、または1巻読むごとに「再読の手引き」の当該箇所を読むと、作者の執筆時の思惑や、本編中で語られなかったこと、謎の答え合わせなどが書いてあり、「それ町」を10倍くらい深く楽しめるような構成になっています。

さんざん読み込んだはずの単行本から、また新しい発見があり、改めて「それ町」のストーリー構成力に驚かされました。

 

またこの「再読の手引き」の合間や後には未収録原稿として、単行本化されずにいたエピソード2本、アニメのBlu-rayボックスに付属していたエピソード1本、アニメで紺先輩のCVだった矢澤りえかさんの結婚記念で書いた漫画1本が掲載されており、ファン垂涎ものです。

そして作者が単行本のあとがきで作りたいと言っていた作中のタイムテーブルも、ようやく回覧板に掲載されました。最終巻に乗らなかったら調べて記事にしようと思っていたところだったので良かったです(笑)

表中の記載がサブタイトルだけで、巻数・話数が書いていないのはちょっと不親切かな?と感じましたが、まあそれもご愛嬌でしょう。

最後は設定画・ペーパー・販促などがまとめられており、嵐山歩鳥と紺双葉の初期モデルとなった短編集「探偵奇譚」のころに近いような、今とはかなり違う画風のイラストも見ることが出来ます。

 

価格はやや高いですが、本書のいたるところから作者の「それ町」に対する作品愛がビシバシ伝わってくる、非常に素晴らしい出来栄えになっています。

間違いなく「それ町」ファンならば買っても後悔しないでしょう。